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風邪 no.1

 

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ーー出ない。

2回目のコールでも留守番電話に繋がってしまい、私は眉をひそめる。

珍しい。歩夢くんはああ見えても真面目だから、ちゃんと約束の時間にはいつも起きているのに。

平昌五輪後、日本に帰国して数日。歩夢くんはテレビ出演やら取材やらで相変わらず大忙しの日々だった。

彼は地元の新潟県村上市にはいまだ帰れず、数々のスケジュールをこなすために都内のホテルに私と共に滞在中だ。

そして、今日も朝早くから朝の情報番組に生出演の予定が入っていた。歩夢くんは早朝に起きなければいけない時でもいつもちゃんと自分で目を覚ます。だけどこんな日は、念の為寝坊しないように私がモーニングコールをすることになっている。

だから今日もまだ日が昇る前だが、もう起床しなければならない時間だったので、私は彼に電話をかけたのだ。

しかし、歩夢くんは出ない。まだ寝てるのかな? 最近疲労が蓄積してたみたいで鼻すすってたもんなあ。

私は自分の部屋を出て、隣の歩夢くんの部屋のインターホンを押す。

しかし反応がない。そろそろ心配になってきた。冷や汗をかきながら、私はもう一度インターホンを押した。ーーすると。

部屋の中から物音が聞こえてきたと思ったら、その数十秒後ドアが開いた。

「……ごめん、起きれなかった」

掠れた声を出しながら、大きな瞳を半開きにして目覚めたての顔を私に向ける歩夢くん。

その時、なんとなく歩夢くんから嫌な気配………彼の身体から、不穏なオーラが出ていた気がして、私は何も言わずに彼の全身をじっと眺める。

「まだ間に合うよね?」

ドアを開けている歩夢くんの手が少しプルプルしている。起きたばかりだからかもしれないが、顔がいつもより青白い。ーーまさか。

私は歩夢くんを軽く押しのけるように部屋に入る。彼も私の後に続いて入ってきた。

「どしたの、。さっきから黙って。寝坊したの怒ってる?」

「ーー歩夢くん」

「ん?」

「風邪、ひいてない?」

そう言うと、歩夢くんは虚空に視線を送り、少しの間考えてからこう言った。

「ーーそういえばいつもよりだるいような」

「やっぱり!」

「でも大丈夫だよ。早く行かないと」

「ちょっと待って、熱あるんじゃない?」

「無いって。ーー測ってないけど。たぶん」

「たぶんじゃダメでしょ! 確認させて!」

私は自分の母親が小さい頃にしてくれていたように、歩夢くんの頬を両手で包みながら自分の顔を近づけ、自分の額と彼の額をくっつける。

「熱っ!」

そして彼のおでこの熱さに驚愕して声を上げた。ーーまずいよ、これ。39度はあるんじゃない?

「かなりあるよ熱! こんなんじゃ動いちゃダメ! 今日の番組はキャンセルね!」

「え、マジで。そこまでしなくても大丈夫だと思うけど」

「絶対ダメ! 無理すると酷くなるよ!? 早めに治さないと!」

私がそう言うと、「え……あー、うん、じゃあ仕方ないか」と力なく歩夢くんは言った。高熱が出ている事実を目の当たりにし、気が抜けたのだろう。

「とりあえず寝て! 病院開いたら一緒に行くよ!」

「りょうかい」

私がそう言うと歩夢くんはのそのそ歩きながらベッドにゆっくりと入り、掛け布団にくるまる。

私は彼の傍らに移動し、少し屈んで彼の顔の高さまで視線を落とす。

「気持ち悪かったりお腹痛かったりしない? 」

「いや、大丈夫。だるいだけ」

少しいつもより会話のペースがスローだが、相変わらず淡々とした声で言う。

ーーでも、よかった。そんなに酷い状態じゃないのかな。

と、私が少し安堵していると。

「……ねえ、

「ん?」

「さっきさ、あの、熱確認するためにおでこ同士くっつけたやつ」

「うん?」


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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