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2/14 平昌 ハーフパイプ会場 No.4

 

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別に私が歩夢くん3本目のRUNの直前に、手を握って引っ張っらなかったことが、この結果に繋がってしまったとは思ってはいない。

そんな些細なことで歩夢くんのメンタルや技術が左右されるわけはない。暇さえあれば腹筋し、入念にストレッチをし、そんなに頑張って大丈夫なの?と心配になるくらいの、彼の日々の鍛練が、私の行動なんかでどうにかなってしまうなんて、考えるだけでもおこがましい。

だから3回目のRUNで歩夢くんが転倒してしまったことは、私が何をしたところで変わらなかったのだ。もちろんそんなことは理解している。当たり前だ。ーーだけど。

後悔の念がとめどなく溢れる。どうしてあの時、手を握れなかったのだろう。歩夢くんにお願いされていたことを、どうしてできなかったのだろう。

最高の状態でパイプにドロップインしたいという歩夢くんの気持ちを、自分が水をさしてしまったこと。

私はそのことを、悔やまずにはいられなかったのだ。





ーーまさか、土壇場で決めてくるなんて。

連続の1440を、五輪の場で、しかも3本目の最終滑走ーー転んだらすなわち負け、という場面にも関わらず、ショーンは決めた。それまで唯一歩夢くんにしかできなかった連続技を、彼はプレッシャーを跳ね除けて。

「えーと、まあ前回も銀メダルで上目指すために年間かけて練習してたんで、まあちょっと悔しさはあの残ってますけど。でも自分が今できる範囲の中では、あのー全力でやれたのかなという、あの素直に、はい、思います。いや楽しかったです。ほんとにもう最後の3人、みんな争って、最後の順番もすごいいい並びというか、はい、すごい今まで一の大会だったんじゃないかなと、いう風に思います」

ハーフパイプ男子の全ての選手の全ての滑走が終わり、日本のメディアのインタビューに答える歩夢くん。

目をしっかり見開いて、時には笑顔も見せて。

金メダルを掴みかけていて、それが指の隙間からこぼれ落ちってしまったというのに、彼は涙1つ見せない。自分が銀メダルに決まった直後も、無表情で虚空を眺めていた。

ーー楽しかった、と彼は言った。

彼は常に本心しか言わない。だからきっと、心からそう思っているのだろう。

たしかに今回のハーフパイプは歴史に残る1戦だったと、にわかの私でもわかる。

絶対王者のショーン・ホワイトと、彼より一回りも年下の歩夢くんが、ほぼ同等の力を持ち、前評判でもどちらが勝ってもおかしくないと言われたこの1戦。

歩夢くんが4回転の連続技を見せつけ、勝ったと思っていた最後の最後に、まさかの初連続4回転を成功させた、ショーンの勝利。 得点が出るまで、どちらか勝つのかほとんどの人間がわからなかっただろう。それほどまでに彼らの実力は拮抗していた。

歩夢くんの滑りの方が上だった、金メダルに相応しいと思っている人も多いのではないかと思う。ーー私も実際そうだし。

だが、最終滑走のプレッシャーをものともせず、自身初の連続4回転を決めたショーンに軍配が上がるのは、致し方ない気もする。

世界中でテレビで観戦している人からしても、手に汗握る展開だっただろう。

ーーだけど、きっと歩夢くんには。

心の内に閉じ込めて、吐き出せない思いがたくさんあるだろう。でも彼は、見苦しいことは決して言わない。どんなことを言ったって、負けた事実が変わらないことを彼は1番わかっている。

僅差ではダメなのだ。圧倒的に、誰が見ても勝利とわかる滑りをしなければ。それが出来なかった自分の負けだ。ーー歩夢くんは、そんなことも考えていそうだ。

「いやー、ほんと全ての人たちに、ほんと感謝しかないですね、今こう終わってみて考えると。やっぱ、うん……そうですね。ほんとにその力が、今回この大会でも結果になったのかなという風に思います」

その後も海外メディアからのインタビューがあり、私はずっと歩夢くんの傍らでそれを訳した。

今の気持ちはとか、今後の意気込みとか、ショーンに対して思うことはとか、何度も似たようなことを聞かれ。

健気に笑顔を見せながら、しかしやはり淡々と答える歩夢くんの言葉を訳す私は、何度も泣きそうになってしまった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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