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2/14 平昌 ハーフパイプ会場 No.3

 

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ハーフパイプが採点競技である以上、それは仕方の無いことなのかもしれない。

だけど、さっきの歩夢くん以上の滑りなんて、誰ができるのだろう。きっとショーンだってできやしない。

ーー100点にしなかった審判たちが、後悔すればいい。私は本気でそう思った。

するとゴーグルを額に乗せながら、歩夢くんがこちらへ歩み寄ってきた。

歩夢くんは不満を口に出した私とは対照的で、特に何も思っていない、とでも言うような、無表情だった。

しかし私と目が合うと、表情を緩ませた。決勝2回目が終わり、緊張が少しとけたのかもしれない。

。写真撮った?」

「…………あ。」

今の今まで、私は首からぶら下げているカメラの存在を忘失していた。今朝彼に言われたことが見事に的中し、私は歩夢くんの写真を撮るということをきれいさっぱり忘れていたのだ。

「撮って……ないです……」

私は言いづらそうに言った。おい、歩夢くんの写真が撮りたくて彼のマネージャー兼通訳になったんじゃないのか、私。こんなのフォトグラファー失格である。

「よっしゃ」

しかし歩夢くんは不敵に笑い、そんな私の言葉に喜びをあらわにした。

が写真を撮れないくらいのもの、見せられたってことだね」

そして私の顔を覗き込みながら、楽しそうに言う。

「ーーうん、すごかったよ。本当に。ーーだけどね」

「だけど?」

「やっぱり撮りたかったよ……」

私は肩を落としながら言う。すると卓くんが私の肩を軽く叩き、「ま、次撮ればええやん」と言ってくれた。うう、優しい。

ーーしかし歩夢くんは。

「は? 次も撮らせないよ」

私に有無を言わさないような、強気の口調で歩夢くんは断言する。

私は反論したかったけれど、彼の言葉の意味が、次も今回のような華麗な空中遊戯を見せてくれるということなので、口を噤む。 「次もよろしくね、

手を引っ張って滑り始める位置まで連れてくことに対して言っているということが分かり、私は頷く。

歩夢くんはそれを見届けると私と卓くんに背を向けて後ろ手に手を振りながら、選手に控え室の方へと向かった。



決勝3本目が始まった。

選手たちが次々と渾身の力で空を舞うが、誰も2本目の歩夢くんの得点を超えることができない。

歩夢くんの直前の選手が滑り終えた。残すは歩夢くんと予選2位だったスコッティ、それとショーンだ。

歩夢くんが足にボードを履き始める。いよいよだ。私は2回目同様、歩夢くんの手を引くために彼の元へ向かおうと足を踏み出した。

ーーだが、その時。

「わっ!?」

私は足を滑らせ、雪の上で盛大に転んでしまう。緊張しているのもあったが、そこまで慣れていない雪上に足を取られてしまった。

「ははっ、何やってんの

私の隣にいた卓くんが、尻もちをついている私に向かって手を差し伸べた。

「うー、ごめん」

私は苦笑いをしながらその手を握り、身を起こす。そして歩夢くんの方へ向かおうと、そちらに顔向けた。ーーすると。

「……あれ」

私が転倒している間に、男性スタッフが歩夢くんの横に立っていた。そして歩夢くんの手を取る。歩夢くんはちらり、と私の方を見たが、そのまま男性スタッフに引っ張られて、RUNの開始位置まで移動してしまった。

ーーげ。私が転んでる間に、親切なスタッフが行っちゃったんだ。そう言えば周りに周知してなかった、私が歩夢くんを引っ張るって。

頼まれていたのに、と少しの後悔の念が生まれる。

しかしもたもたしてる私を待っているよりも、歩夢くんのタイミングでさっさっと行って競技に集中したほうがいいだろう。

そう思い、私はそこまで気にしていなかった。歩夢くんがお願いしてくれたことをできなかったのは申し訳なかったけれど、大した問題ではない、と。

ーーだけど。

私はこの後、この時の自分の行動を死ぬほど後悔するほどになる。

なぜこのタイミングで転んでしまったのか。なぜ歩夢くんの手を握らなかったのか。

私は人生史上最大に、後悔することになるのだ。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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