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2/14 平昌 ハーフパイプ会場 No.2

 

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「ーーわかった。やります」

私は深く頷いて、真剣な面持ちを彼に向ける。

ーー歩夢くんがそう言うのなら。私にそうして欲しいというのなら。

迷う必要なんてない。私はあなたに勝って欲しいから。誰よりも高く、きれいに雪の上を舞ってほしいから。

私はあなたが勝つためなら、なんだってやるよ。

「ありがと」

そう言うと歩夢くんは、私の頭をいつものようにぽんぽんと軽く叩き、ボードを抱えて立ち上がった。

私は照れることも忘れ、歩き出し、死闘に赴く彼の背中を見守る。

ーー予選の二回目が始まる。



歩夢くんが足首とつま先をストラップで止め、ボードを装着した。傍らには立つ私は息を飲んだ。ーーいよいよだ。

「ーー、よろしく」

ゴーグルを付けた歩夢くんが、私に向かって静かに言い、手を伸ばした。私は彼の手をしっかりと握る。そして競技の開始位置まで引っ張り始めた。

歩夢くんが私の手を強く握った。私は返事をするように、堅く握り返す。

グローブ越しからでも、手から伝わる歩夢くんの呼吸が、気迫が、私の中に入り込む。

開始位置までたどり着くと、私はゆっくりと手を離した。引っ張っていたのはほんの数秒だったが、そのたった数秒で、私は彼から甚大な量の闘志を感じた。

ーーやるのだろう。予選では出さなかったダブルコーク1440の連続技を。

そして歩夢くんはヘルメットの位置を微調整し、滑り始め……パイプにドロップインした。

最初はいつも通り、群を抜いた高さのエアー。雪上で舞う白いウェアの歩夢くんは、羽が生えているのではないかと見紛ってしまう。

ーーフロントサイドダブルコーク1440。エックスゲームの時も思ったけれど、相変わらず美しく無駄のない回転。あまりにもスムーズに回るから、本当に難易度が高い技なのかと一瞬疑ってしまう。

そしてーー。

ーーキャブダブルコーク1440。……決めた。連続で、1440を。地球上で歩夢くんにしかできない、凄技を。

勝てる、と思った。だって連続の1440は、世界のどこを探しても、できるのは歩夢くんだけなのだから。まさかこの土壇場で、いきなりそれを超えるルーティンなんて、出るはずがない。

1440の連続技を決めたあとも、歩夢くんはスピードを維持し、フロントサイドとバックサイドのダブルコーク1260を華麗にメイクした。 ドロップアウトし、歩夢くんが控えめにガッツポーズを取った。歩夢くんにとっても、会心の出来だったろう。

非の打ち所のないRUNだった。歩夢くんが生み出した全ての瞬間が、完璧に美しかった。

そして、得点が出る。95.25。ショーンを抜いて、もちろん暫定トップだ。

ーーだが。

「……低い」

私は思わずそう呟いた。Xゲームの時は、同じように内容で99点だったのに。最高の難易度の、他の誰にもできない技を完璧に決めたのに、それにしては点が出ていない気がする。

「3回目残してるからな。しゃーないわ」

すると、私の隣にいつの間にか立っていた卓くんが、苦笑を浮かべながら言う。

「卓くん! 優斗くんは!? 大丈夫だった!?」

実は優斗くんは決勝の2回目のRUNで転倒して自力で起き上がれることが出来ず、担架で運ばれてしまったのだ。

心配だったけど、私は歩夢くんとの約束があったので卓くんだけが優斗くんの様子を見に行っていたのだった。

「あー、まあ怪我の方は後には引かへんと思う。せやけど3回目は……棄権やな」

「棄権……」

私はショックを受ける。優斗くんはワールドカップで歩夢くんを抑えて優勝したこともあり、メダルを十分に狙える選手だ。

しかし、現時点の得点はメダル圏内ではないし、3回目棄権となるとその希望は完全に絶たれてしまったのだ。

「まあ、優斗は若いから。すぐ立ち直るで」

「……うん」

「それより、歩夢の点だけど。審判が出し惜しみしてんねん」

「出し惜しみ……?」

「100点満点やからな。後に選手がいる限り、歩夢がどんなに頑張ったって満点は絶対出えへん。しかも今はまだ2回目やろ? ショーンあと2回も滑れるから」

「……なるほど」


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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