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2/14 平昌 ハーフパイプ会場 No.1

 

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決勝1回目、ハーフパイプ界のレジェンドであるショーン・ホワイトは、当然のように4回転やダブルマックツイストを決め、94.25の得点を出し、暫定1位に躍り出た。

対する歩夢くんの1回目はーー途中のダブルコーク1080で転倒してしまい、得点を伸ばすことは出来ず。

決勝戦が始まり、私は選手たちが滑り始める付近の、関係者のみが入れるゾーンで卓くんと一緒に観戦した。ここからはハーフパイプ全体が一望でき、選手の達が美しく舞う姿をしっかりと目に焼き付けることができる。

そして全ての選手の予選の一回目が終わり、選手や関係者が小休憩する室内のスペースにやってきた私たち。私の傍らには歩夢くんがいた。

彼は一回目の失敗を特に気にする風でもなく、いつものように淡白な表情をして、虚空を見つめていた。ショーンの点数が出た時にも「まあ、そんくらい出すよね」とでも言いたげに、特に表情を変えなかった。

ハーフパイプは転倒が多い競技だ。決勝3回のRUNのうち、すべてを成功させる選手はほぼいないだろう。だから私も特に歩夢くんの転倒は気にならなかった。

ーーだけど。

今日は本当に集中しているな。

研ぎ澄まされた刃のような気配が、隣の歩夢くんから私に突き刺さるように伝わってくる。その眼光からは、命をかけて挑むことへの覚悟が発せられていて、儚く、美しい。ーー魅了されて石化してしまうんじゃないかと思えてしまうくらい。

朝「キスさせてよ」とかいう冗談を言っていた人物と同じとは思えない。とても私の方から話しかけていい雰囲気ではなかった。

まあ、すでに歩夢くんとは無言で同じ空間にいても気にならないくらいに慣れてはいるけれど、さすがに今日はいつもと違うので、私は手持ち無沙汰に足をぶらつかせたり、無意味にカメラをいじったりしていた。

ーーすると。

「ーーねえ、

「えっ!? 何!?」

突然歩夢くんが話しかけてきたので、少しぼーっとしていた私の心臓が跳ね上がる。

歩夢くんに視線を合わせると、彼は口角を上げ、少しだけ笑っていた。しかし彼の発するオーラは、やはり生死をかけた決闘に向かう侍そのもの。

にさ、お願いがあるんだけど」

歩夢くんはいつものように、彼らしいゆっくりとしたテンポで、低い声で言う。

「な、なんでしょう……?」

「あのさ、RUNの前に。ボード履いてる状態だと、開始位置まで行くのが平面だから大変で。だから誰かに手を引っ張ってもらって移動するんだけど」

「う、うん」

「次のRUNでは、に俺を引っ張ってほしいんだけど。いい?」

私が歩夢くんを。

私が滑る直前の歩夢くんの手を握り、RUNの開始位置まで連れていく。

確か予選や決勝一本目では、日本のチームの男性スタッフがやっていた気がするけど。

なんだかすごく重大な役目に思えて、私は焦った。

「えっ! 私なんかでいいの……? も、もっと慣れてる人の方が……」

「別に引っ張っていくだけだから、なんも難しくないよ。誰にでも出来ると思う。ーーだけどね」

すると歩夢くんは、溢れ出る闘気を抑えるながら、私に向かって笑みを深く刻んだ。

「俺はにやってほしいんだよね」

じっと私を見つめながら、ゆっくりと、はっきりと歩夢くんは言った。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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