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2/14 平昌 選手村 No.2

 

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しかしそれにしても、本当に無防備に笑うなあ。自分の笑顔が俺をとれだけ煽らせているのか、分かっているんだろうか。100パーセント分かってないだろうけど。

がキスしてくれたら、もっとやる気が出るけどね」

をいじめたい衝動に駆られた俺は、思わずいつものようにからかうようなことを言ってしまった。

「え……」

するとはさらに顔を赤くさせ、落ち着かない様子で俺から目を逸らした。この様子は恐らく、この前のキスでも思い出して内心慌てているのだろう。

ーーったく、そういう反応が見たいから、いじめちゃうのに。ほんとうに分かっていない。

「キ、キスはもうしないってば……」

そしてはたどたどしく、必死な口調で言った。

ーー今ここで無理やりキスしたらどんな顔するんだろ。すげー見てえ。

なんて思ったけれど、今俺達がいるのは選手村の食堂。ざっと目に見える範囲でも、数十人の選手や関係者が食事を摂っている。

もちろんここでそんなことできるはずもなく。ーーというか、決勝前にさすがにそこまでする気は起きない。

「残念」

俺は少し笑いながら、軽い口調でそう言った。するとが、ぎこちない様子で俺の方を見て、相変わらずたどたどしく、しかし意を決したようにこう言った。

「きょ、今日の決勝で!」

「ーーえ?」

「優勝したら……い、いいよ」

そう言うとは俺から目を逸らし、食事に使ったトレイを持って早足でそれらを片付けると、逃げるような足取りで食堂から出ていってしまった。

ーー初めてじゃない? の方から、いいよだなんて。

今までキスしたり抱きついたりは、俺が欲望を抑えられなくなって衝動的に行動して、押しに弱いに迫るように発生していた。

だけど、今のの言葉は。初めての、からのーー。

もしかして、俺が思っている以上に。にとって俺は、雇い主以上恋人未満なのかもしれない。

何にしても、今日の決勝は勝たなければならない。俺の4年間の我慢や努力、軌跡をかけて。

ーー大丈夫。実力を出し切れば、勝てる。

何度も何度も俺は脳内でそう繰り返し、自分を鼓舞させる。しかし五輪はやはり普通の大会とは違う。普段は起こりえない、嫌な方向への奇跡が起こってしまう可能性が高いのだ。

いくら自分を奮い立たせても、頭の片隅を覆う曇天は、どうしても消しされない。

だから俺はの澄んだ晴天のような微笑みを思い浮かべて曇り空を吹き飛ばし、今日の決勝に臨む。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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