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2/13 平昌 選手村 No.6

 

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「……なんで俺にこの話をしたの」

そして俺は初めからずっと不思議に思っていたことを彼に尋ねた。俺たちは同じ女の子を取り合うライバル同士だ。過去のことや今の思いの丈を知ったところで、意味はあるのだろうか。

すると羽生くんは瞳に先鋭な力を混ぜて、少し棘のある声で言った。

「平野くんが、のことをちょっとかわいいな、とか彼女にしてもいいかな、って思ってる程度なら引っ込んでほしくて。俺は本気だから。俺にはが必要だから」

「ーーなるほど」

「でも……どうやら違うみたいだね。今話してわかった」

「そうだね」

俺はゆっくりと断言する。絶対に譲れなかった。

は羽生くんより俺といることを選んだ」

そして俺は彼に事実を突きつける。そうなのだ。

羽生くんのところには行かない、1秒も迷わなかった、とは言ったんだ。だからーー。

「そうだね」

少しは怯むかと思ったのに、羽生くんに特にショックを受けた様子などはなかった。

「でもね、平野くん」

「ーー何」

「人の心は変わるものだよ。ーー4年前はスノーボードのことしか考えていなかった君が、に心を奪われてしまったようにね」

「…………」

再度黙ってしまう俺。に出会う前の俺が今の俺見たら、どう思うのだろう。情けない、ボードに集中しろ、とでも言われそうだ。

だけど今の俺は、に出会う前の自分を忘れてしまった。今はこんなにのことを考えているのに、昔はこの時間を、俺は何に思考を巡らせていたのだろう。

それに俺はを好きになってからの方が、明らかに勝負にかける力が強くなった。が傍にいると思うと、奥から奥から力が湧いてきて。負ける気がしなかった。

「ーーごめんね、明日決勝なのに、長々と」

すると羽生くんは席を立った。俺は「いや、いいけど」と言い首を振る。

そして羽生くんは、俺の目をじっと見た。不敵に大胆に、闘争心を瞳に込めて。

「俺はいつか君からを奪う」

ゆっくりと彼は俺に言った。大胆不敵な宣戦布告。あまりにもはっきりと言うから、清々しささえ感じた。

俺は口角を上げて挑戦的な笑みを浮かべて、彼を強く見据えた。

「やれるものなら」

「奪いがいがあるね」

「無理だよ、残念だけど」

「ーー平野くんは本当にかっこいいね。同性の俺から見ても」

「そっちもね」

そこまで会話をすると、羽生くんは俺からふっと目を逸らし、そのまま姿勢よく颯爽と歩いて、カフェから出ていってしまった。

ーーショーン・ホワイトに羽生結弦。

俺が倒さなきゃない相手は、どうしてどいつもこいつもレジェンド級なのだろう。俺はカフェのテーブルに頬杖をつき、1人笑いそうになった。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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