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2/13 平昌 選手村 No.4

 

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歩夢side

と最初に会ったのは、10年以上前……が小学校に上がるか上がらないかの頃だったかな」

羽生くんは懐かしそうに穏やかな語り口で話し始めた。

俺にとの思い出を話す意図がよくわからなかったけれど、子供の頃ののことは興味深かったので、俺は黙って聞くことにした。

それが羽生くんの口から説明されるのは、少し癪だったけれど。

「よく笑う明るい子だったけど、転んでも絶対泣かなかったし、できないことがあれば何回でも、何時間でも練習し続ける子だった。すぐに泣いたりもうやめたいって言ったりする子が多かったから、変わった子だなって最初は思ってた」

今のを見ていれば、彼の話に嘘がないことがわかる。だって彼女はいつだって前向きで、ネガティブな姿をあまり見たことがなかったから。

「俺もその頃からスケート馬鹿だったからね。そんな風に頑張れるとは気が合ったんだ。もスケートを続けていれば、いいところまで行ったんじゃないかと思う。ーーもったいないね」

確かに、フォトグラファーとして景色の写真を撮っていたは、体力がありそうだ。野宿をしたとも言っていたし、標高の高い山に登って撮影をする機会がしょっちゅうあったとも言っていた。運動神経も悪くなさそうだ。

だけど俺は、急な引越しでスケートをやめることになったの運命に、心から感謝した。

もし、そのままスケートを続けていて。羽生くんと同じ場所にいたとしたら、今頃はーー。

は俺によく懐いてくれて。一緒に練習したり、遊んだりして。かわいい妹だな、と思ってたよ」

「ーーとてもそれだけには思えないけど」

俺が久しぶりに口を開くと、羽生くんは穏やかな笑みを一瞬だけ強ばらせた。

言われなくても目を見ればわかる。羽生くんが今のに対して、どんな想いを抱いていて、何を望んでいるかを。

そしてそれを俺がすでに知っていることも、羽生くんはわかっているはず。

「妹みたい、と思ってたのはーーあの時までだった」

「あの時……?」

すると羽生くんは、瞳にこめていた懐かしさの中に、何かしらの深い想いを混ぜた。

「ちょっと大きめの大会に出た時に、俺は滅多にないくらいに調子が悪くて。普段なら考えられないようなミスを連発した。いつもなら軽々飛べるジャンプも、何度やっても転倒したし、構成も間違えた気がする。ーーが応援してくれている目の前でね」

「…………」

それは競技生活をしている上ではよくあることだろう。俺にだって、特に理由は見当たらないのに、何故か不調の時はある。

しかし羽生くんはその時まだ子供だった。子供の頃というのは、その競技が楽しくて楽しくて仕方のない時代だ。

メンタルトレーニングもまだ行ってない頃のそのできごとは、かなりショックだっただろうと思う。

「へこんだね、もう。そんな俺を見て周りの人間達は「次頑張れ」とか「大丈夫だよ」とか、腫れ物を触るように言うだけだった。まあ気を遣ってくれたんだとは、今ではわかる。でもその時の俺は「頑張ったのに、次はもっと頑張らなきゃならないのか」とか「何が大丈夫なんだ」としか、思えなかった」

その時の感情が手に取るように俺にはわかった。そういう時、周りは当たり障りのないことしか言えないのだ。それ以上傷つけないように、落ちてしまわないように。

だけど言われた本人は、その一言一言を重く受け止めてしまう。理想の自分と現状の自分が違いすぎるというストレスから、反発してしまう。


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Author:泰人
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