記事一覧

2/13 平昌 選手村 No.1

 

Your name






side

予選が終わったあと、私は1人で選手村のカフェに行き、歩夢くんのスケジュールの調整や確認を行っていた。

タブレットでテレビ局や新聞者から届いたメールをチェックし、手帳に書き込みながら情報を整理していく。

まだ予選が終わったばかりなのに、取材の依頼はひっきりなしに来る。これでメダルを取ったらどうなってしまうのだろうか。私の能力で、うまく捌けるかな。

予選を終えた戦士達は、今はそれぞれの部屋で心身を癒している。勝ち進んだものは明日の決勝のため。

ーーそして敗北してしまったものは。

部屋で1人きりになって仕事をする気にはなれなかった。カフェの程よい喧騒の中の方が、余計なことを考えずに済む。今日のマネージャーの仕事は大変だけれど、私はその忙しさに少しだけ感謝する。

タブレットを見すぎて目が疲れたので、私は数秒目をつぶって眼球に潤いを与える。そしてだいぶ前に注文して、すでにぬるくなったコーヒーを1口飲んだ。

ーーすると。

「やあ、

不意にテーブルの傍らから名前を呼ばれた。私は声のした方に顔を向ける。そこにいたのは。

「お兄……じゃなかった、結弦くん」

天才フィギュアスケーターの、羽生結弦が、私に向けて笑みを浮かべて、そこに立っていた。

「ここ、座っていい?」

「うん」

私に許可を取ると、私の向かいの椅子に結弦くんは腰を下ろし、相席状態になった。

結弦くんに会うのは……あれ以来。結弦くんが私に専属のカメラマンになって、という話をした以来だ。

今カフェで遭遇したのは偶然だと思うけど、私を見つけて、その返事について聞きに来たのだろう。

私の能力を買って提案してくれたことだから言いづらいけれど、最初から決めていたことだ。私はきっぱり断ろうと、口を開いた。

「結弦くん、この前の話だけど」

「あ、わかってる」

瞬時に意外なことを言われて、私は紡ごうとしていた言葉を喉の奥に引っ込め、目をぱちくりさせた。

「え……?」

「マネージャー続けるんでしょ、平野くんの」

結弦くんは笑みを浮かべたまま、特に気にしていないような素振りで軽く言った。

「なんで……わかったの?」

「だってあのあと練習見にこないしさ。それに俺の方来てくれるんなら、の方からやりたいって言ってくれると思ったし」

「あ……」

言われてみればそうだ。あのあとフィギュアスケート会場に全く行っていないのだから、普通はそう察するだろう。

「ごめん……」

「いいよ。まあ、最初からそんな気がしてたんだ。ダメ元だったし、提案したの」

「最初から……? なんで?」

「んー、なんとなく」

なんでわかったのだろうと気になったけれど、結弦くんは虚空を見上げながら曖昧にそう言った。それ以上追求するのは野暮な気がしたので私は黙った。ーーすると。


お気に召したらお願いします→ web拍手 by FC2

前のお話   次のお話

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

名前変換

 

Your name